【河合隼雄、立花隆、谷川俊太郎/書籍】読む力 聞く力(岩波書店、2016/1/15読了)



本書は、絵本・児童文学研究センター主催第10回文化セミナー「読む 聞く」(2005年11月20日)の記録であり、それを文庫本化した書籍です。

著名な3名、臨床心理学者の河合隼雄氏(故人)、ノンフィクション作家の立花隆氏、詩人の谷川俊太郎氏による講演、パネルディスカッションをまとめたもの。

今回は、この2005年開催のセミナー、その中でも特に、立花氏が講演の中で人工内耳を例に挙げて話している部分に注目しました。昨今の人工知能(AI)ブームの中、今後の技術開発の方向感を考えるのに役立つ話だと思ったからです。



■わかるということ ―立花氏の講演の中から
本書内には、立花氏の講演録がおさめられています。その中で、同氏が人工内耳を例に取り上げて説明している部分があります。

(P43)耳の中に蝸牛というカタツムリみたいな格好をした器官があって、その中に有毛細胞があります。そこに人工的な電極を入れて…

しかし、同氏は、本当に音が何かを「わかる」ためには、単に音を聞いて、その音の信号を脳に届けるだけでは駄目であると説明しています。

(P48)普通われわれは音がしたとき、その音がした方をパッと向いたりします。それは音と空間の音波の伝わり方の関係が分かっているからで、生まれてからそういうものと隔絶された世界に住んでいた子供はわからないわけです。

つまり、立花氏は、音を電気信号に変えたもの、その他の器官の情報、また記憶等のすべてが全部合わさって初めて、その音について「わかる」ということが成立すると指摘しています。

■わかる瞬間がある ―立花氏の講演の中から
しかし、人工内耳を入れた子供がある瞬間に、わかる、を体験するようになる。子供がおもちゃの太鼓を与えられ、使ってみている様子を観察していた立花氏は、下記のように説明しています。

(P49)あるときその子供が何となく音というものがハッとわかる…それが表情でわかりました。
(P51)要するに人間がいろいろなものがわかるためには、すべて何らかの意味でフィードバック回路が成立して、自分の行動、高位の意味が自分に入ってくることが必要なんです。

人工内耳を入れた子供にとって、初めは、外部の音の情報(電気信号で脳に伝わる)は、単なる意味不明な雑音のようなものにしか受け取れない。しかし、自分自身の行動とその結果としての音信号を体験していくうちに、行動と音との因果律を脳が理解し、初めて音のことがわかるということなのでしょう。

■この話から考える「人工知能、とくにDeep Learningの今後の方向感」
現在ブームとなっている人工知能。特に、昨今ブレイクスルーがあったと言われるDeep Learningの今後の方向感を考える上で、上記の話は非常に示唆に富むものです。

現在、Deep Learningにより、人間の視覚以上に、画像からモノの識別ができるようになっています。しかし、機械は違いを識別できるけれど、画像を人間のように分かっているかといえば、違うのではないかと思います。

とういのも、上記の立花氏の話を踏まえると、現状のDeep Learningは、ある種のフィードバックがない。まだまだ、人工内耳の話で言えば、音の信号をキャッチできるものの、音そのものを理解している段階ではない。その飛躍がまだ起きていない、というところなのではないでしょうか。よって、今後、Deep Learning等の人工知能技術では、機械自身の行動とその結果をフェードバックする仕組みを入れていくことが必要となるのでしょう…。

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