以前、「京都ぎらい」(朝日新書)なる新書を読み、なかなか面白いものをかくなと感心した井上章一氏。
同氏の新しい新書「京女の嘘」(PHP研究所)なる新刊が出ていたので読んでみた。同氏は、美人の研究をしている人でもあるらしい…
アカデミックの立場から、美人という人それぞれ捉え方の異なる対象を研究できるのか?との疑問を抱えつつも、同書を読んでみた所感を下記にまとめてみたい。
<目次>
1.秋田美人、新潟美人、京都美人は、同地域の魅力が低下したことの証?
2.女性の魅力を引き上げる京都弁
3.まとめ
1.秋田美人、新潟美人、京都美人は、同地域の魅力が低下したことの証?
同書の中で、いわゆる○○美人という言い方についての話がある(○○の部分には、地域名が入る)。例えば、秋田、新潟、京都など。
同氏は、本当に○○で表記される地域に美人が多いのか?と疑問を持ちつつ、本来的には、地域から人がどんどんと集まる東京に美人が多いはずといっています。
それは、あらためて考えてみれば当たり前であり、様々な地域から、若い女性が華やかな東京の暮らしにあこがれて集まってくる東京、そもそも人口がとびぬけて多い東京に、絶対数として美人が多いのだと。
逆に、なぜ秋田、新潟、京都に美人が多いという言説が流布するのか?その理解として、同氏は、人気や魅力が低下する地域のある種のブランディングによるものであろうと(私の理解)。
というのも、最も美人が多いはずの東京では、東京美人などといわない。あえて京都美人などというのは、美人が特段多いわけではないことの証ではないかと。あえて、○○美人ということで、当該地域には綺麗な女性が多いというイメージを作ろうとしているのではないかと。
同氏はさらに、歴史をさかのぼり、昔、京都が日本の中心であった時代には、京都美人なる言い回しはなかったという。日本の中心が東京に移った後に京都美人なる言い回しが出てきたのが、上記の傍証になろうと…
美人について、ここまで考える井上氏に少々の感心を持ちますね。
2.女性の魅力を引き上げる京都弁
また、同書では、京都弁の「かんにん」という言葉を例示しつつ、京都弁の効力について言及しています。
京都弁、またもう少し拡大して、関西弁は、東京などで男性が使うとマイナスに働くという。男性が女性に恋仲になろうとアプローチする際に、特に決め台詞に関西弁を使うと魅かれてしまうと。
女性心理からすると、大切な決め台詞を関西弁で言われると、芸人がネタとして話しているように聞こえてしまうとの話も。
なるほど。それも分かる。普段の会話の関西弁は気さくで面白いので、気にならないが、大切な時の言葉は標準語で話してほしい、という心理ですね。
一方、女性が使う関西弁、なかでも京都弁の「かんにん」という言葉は、東京の男性、特にオジサンの心をつかむ言葉らしいとのこと。
「かんにん」という言葉は、なにやら悪代官と女中のやり取りを想起させ、少しセクシャリティの響きがあると。なので、普段の仕事の中でも、京都出身の女性が何気なく発した「かんにん」という言葉に、東京のオジサン連中は反応するとのこと。
これもなるほどと思う。たしかに、東京出身者にしてみれば「かんにん」という言葉を、若い女性が使うとなにやら怪しい響きを持っているように感じますからね。
ただし、女性自身も上記の「かんにん」の怪しい響きについては、自覚している人がいるそうで、そうした人は、東京では京都弁を使わないという女性も多いとか。
京都の女性が「かんにん」を使う場に居合わせた、東京出身の女性の目を気にするとのことであろう。男性に媚びていると他の女性に関じれられると面倒んなことになるからという理由らしい。
なるほど。難しい言葉なのですね「かんにん」は。
3.まとめ
井上章一氏の本はなかなか面白い。話のテーマ自体が、人間の心理の微妙なところを突くものであり(美人だとか、好き嫌いだとか…)、厳密に何か言い切れる話ではないが、その視点が面白い。
前著の「京都ぎらい」などは、その部分を上手く文字に落とし込めているため、かなり人気であると聞く。本書「京女の嘘」もかなりモヤモヤなテーマであるが、微妙な心理を上手く表現できており、興味深い。
次の本早くでないかな(笑)。