財務省の法人企業統計からみる、設備投資と売上、そして内部留保について


 財務省が公表する2016年度の法人企業統計によれば、現在の我が国企業の「内部留保」が過去最高406兆円となったとされている。

 各種報道では、この企業の企業の「内部留保」の積み上げが問題として指摘されている。つまり、ここ数年、アベノミクスなどの政府の取組もあり、民間企業は利益を上げているが、それが将来の企業活動のための投資や、従業員の賃金増加に役立てられていないという指摘である。

 この指摘は、ある意味、ごもっともであると思いつつも、では内部留保として利益をためて置くのではなく、かりに「将来の企業活動のための投資」に回した場合、本当に、企業活動が拡大するのか?

 もし仮に、将来の企業活動のための投資をしても、企業活動が拡大しないのであれば、将来のリスクのために「内部留保」として企業が利益を蓄えておくのも、「そうだよな…」と思ってしまう。

 そこで、同じ財務省が公表する法人企業統計を使って、将来の企業活動のための投資(設備投資)と企業の売上高の関係に着目してみました。

<目次>
1.財務省が公表する法人企業統計とは
2.製造業の売上高と(設備投資/売上高)を算出してみる
3.設備投資率と売上高の関係を「2016年までの5年間」「2011年までの5年間」で比較
4.設備投資が売上高拡大につながる!?この結果をどう解釈すべきか?





1.財務省が公表する法人企業統計とは


 財務省の財務総合政策研究所のWebサイト(http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/index.htm)には、調査の結果(最新5年分)として、法人企業統計調査の統計データが公表されています。

 具体的には、平成23年度から平成28年度までのデータがPDFとエクセルファイルで参照可能です。年度によって報告書の中の掲載データ項目は一部異なりますが、平成28年のデータとしては、下記の項目があります。

<平成28年度報告書の掲載データ項目>
・売上高の推移
・経常利益の推移
・売上高利益率の推移
・剰余金の配当の推移
・利益剰余金の推移
・付加価値の構成
・設備投資の推移
・在庫投資と在庫率の推移
・資金関連項目の推移(残高ベース)
・資金調達の構成(フローベース)
・自己資本比率の推移
・経常利益の推移(金融業、保険業を含む)
・剰余金の配当の推移(金融業、保険業を含む)
・利益剰余金の推移(金融業、保険業を含む)
・設備投資の推移(金融業、保険業を含む)
・自己資本比率の推移(金融業、保険業を含む)


 ちなみに、上記データ項目の「利益剰余金の推移」の中で、件の「現在の我が国企業の「内部留保」が過去最高406兆円」というデータが記載されています。

2.製造業の売上高と(設備投資/売上高)を算出してみる


 法人企業統計調査から、特に製造業に着目して2007年~2016年までの10年間のデータを拝借して分析しました。

 具体的には、2007年~2011年までの5年間、2012年~2016年までの5年間に分け、それぞれの期間で「5年間の平均売上高」と「5年間の平均(設備投資/売上高)」を算出しました。なお、以降、(設備投資/売上高)を設備投資率ということにしましょう。

 ちなみに、5年間の平均値を取ることにしたのは、直近10年間の中でも、年によっては、経済的な事象によりデータが大きく変動することもありますので、それをならすためです。

 また、製造業とひとくくりにするのもおおざっぱですので、統計データの区分に従い、下記の業種について、それぞれ「5年間の平均売上高」と「5年間の平均設備投資率」を算出しました。

<製造業の業種>
・食料品
・化学
・石油・石炭
・鉄鋼
・金属製品
・はん用機械
・生産用機械
・業務用機械
・電気機械
・情報通信機械
・輸送用機械


 業種別に、「2016年までの5年間」「2011年までの5年間」での「平均売上高」および「平均設備投資率」の算出結果を下記に示します。

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 2016年までの5年間に注目すれば、「鉄鋼」において設備投資率は4.6%と最も高い。その次は「情報通信機械」で3.9%、「化学」で3.7%と続く。製造業では、売上高の1~4%程度が設備投資に回されている状況が把握できます。

 ちなみに、「石油・石炭」において設備投資率が1%と他業種よりも低い。国内では石油・石炭に係る産業が斜陽産業だからであろうか…


3.設備投資率と売上高の関係を「2016年までの5年間」「2011年までの5年間」で比較


 それでは、設備投資率と売上高の関係を見てみましょう。

 「2016年までの5年間」と「2011年までの5年間」の「平均売上高」および「平均設備投資率」を使って、業種別に両期間での「平均設備投資率」の変動、および「平均売上高」の増加率をプロットしたのが下図です。

2017-09-03_0001.jpg

 この結果を見ると、「はん用機械」「業務用機械」「生産用機械」「輸送機械」では、設備投資率は増加し、かつ売上高も増加しています。このグループをG1と呼ぶことにします。

 逆に、「電気機械」「石油・石炭」「鉄鋼」においては、設備投資率は減少し、かつ売上高も減少しています。このグループをG2と呼ぶことにします。

 ちなみに、業種ごとの「平均売上高」と「平均設備投資率」の相関係数を算出すると、「0.58」となり、両者には相応に高い相関が見られる結果となりました。

4.設備投資が売上高拡大につながる!?この結果をどう解釈すべきか?


 上記の算出結果から、

・G1の業種は、「2011年までの5年間」と比べて「2016年までの5年間」では設備投資を増やすことで、売上高も増加させることができた
・G2の業種は、「2011年までの5年間」と比べて「2016年までの5年間」では設備投資を増やさなかったため、売上高が減少してしまった


 と解釈すべきでしょうか?あくまでも、両者に相関があるという結果ですので、逆に、

・G1の業種は、「2011年までの5年間」と比べて「2016年までの5年間」では売上高が増えたので、設備投資を増やした
・G2の業種は、「2011年までの5年間」と比べて「2016年までの5年間」では売上高が減ったので、設備投資を減らした


 とも解釈できそうです。いずれにしても、因果関係をどう解釈するかによると思います。

 過去の日本の製造業の統計データから考えると、もし前者の解釈とするならば、今後、日本の製造業で売上高を拡大させていくためには、内部留保として利益をためておくのではなく、今後は積極的に設備投資を増やしていくべきと考えられいます。そうでないと売上は増えていかない…また生産性を向上させない限り、利益も増えていかない…

 一方、後者の解釈をとるならば、直近5年間、日本の製造業の売上高は停滞しています(ほぼ現状維持)。そう考えると、過去の統計データから類推するに、今後、設備投資は大きく増えないと予想できます。売上が拡大する市場局面まで、内部留保がたまっていくという状況になるのかもしれません…

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